１００日後に離婚しているかもしれない夫婦の話②

ゆう

あや

とか

第二章: すれ違い

仕事を終えて家に帰ってきたゆうは、玄関のドアを静かに閉める。長い一日だった。疲れ果てた体を引きずるようにしてリビングに向かうと、あやがソファに座り、無表情でテレビを見ていた。彼の視線があやに向けられるが、あやは一瞬だけゆうを見上げ、再びテレビ画面に視線を戻す。

「ただいま」と口を開きかけたが、言葉は喉の奥に引っかかり、そのまま消えてしまった。ゆうは結局何も言わず、キッチンへと足を向けた。冷蔵庫を開け、冷たいビールを取り出して缶を開ける。その音が静かな家に響くが、リビングのあやは微動だにしない。

あやはテレビの画面に集中しているふりをしながらも、ゆうの動きを気にしていた。ゆうが何か言いたげな様子を感じ取ってはいたが、自分から話しかける気力はもう残っていなかった。心の中では、何度も「話しかけるべきか」と葛藤するものの、そのたびに言葉が見つからず、結局沈黙を選んでしまう。

キッチンのカウンターに肘をついてビールを一口飲むゆう。頭の中では、あやとの関係がぐるぐると回り続けていた。「何とかしなければならない」と自分に言い聞かせるが、どうすればいいのか分からない。無力感が襲いかかり、もう一口ビールを飲み込む。

リビングとキッチンの間にある見えない壁。それは日に日に厚みを増していった。お互いに何かを言いたい気持ちはあるが、言葉にすることができない。その結果、二人の間にはただ沈黙が流れ、距離が広がるばかりだった。

あやは、テレビの内容が頭に入らないまま、ただ画面を見つめ続ける。心の中では「このままでいいのだろうか」と何度も問いかけるが、答えは見つからない。結婚当初の幸せな日々が、今ではまるで夢のように遠く感じられた。

ゆうがキッチンでのビールを飲み終えた頃、あやは立ち上がり、無言のまま寝室へと向かった。ゆうはそれを見送りながら、重い気持ちを抱えてソファに腰を下ろす。リビングには、またしても沈黙だけが残された。

夜が更けるまで、二人は別々の場所で時間を過ごし、結局その日は何も話すことなく終わってしまった。そんな日々が続き、見えない壁はますます厚く、高くなっていった。それは、二人の間の溝が深まるばかりであることを象徴していた。